我が家の台所のシンクは、数週間前から少しずつ水の流れが悪くなっていました。最初は気のせいかと思う程度でしたが、次第に洗い物をするたびに水が溜まるようになり、その水位は日に日に上がっていきました。ゴミ受けのネットは毎日交換しているし、目に見えるゴミは取り除いている。それなのに、なぜ。そんなある朝、ついにその時がやってきました。朝食の片付けをしていると、シンクの水が全く流れなくなったのです。まるで栓をしたかのように、汚れた水がシンクの半分ほどまで溜まってしまいました。絶望的な光景を前に、私は途方に暮れました。まず試したのは、ドラッグストアで購入した液体タイプのパイプクリーナーです。強力そうな製品を選び、ボトル半分を注ぎ込んで数時間待ちましたが、結果は変わりませんでした。次に思いついたのは、ラバーカップ、通称「スッポン」です。しかし、これも効果はなし。それどころか、押し引きするたびに、ヘドロのような嫌な臭いが逆流してくる始末でした。万策尽きた私は、インターネットで原因を徹底的に調べることにしました。そして、「排水トラップ」という部品の存在にたどり着いたのです。ゴミ受けの下にあるお椀型の部品が、臭いを防ぐと同時に、詰まりの原因にもなりやすいこと。そして、それを外すと水が流れる場合、問題の核心はそこにあること。意を決してゴム手袋をはめ、恐る恐るそのお椀を回して外してみました。その瞬間、目に飛び込んできた光景と、鼻を突いた強烈な悪臭に、私は思わず後ずさりしました。お椀の内側と、その下の排水管の周りには、黒くてヘドロ状の、正体不明の塊がびっしりとこびりついていたのです。それは、長年にわたって蓄積された油と食材カス、洗剤カスが混ざり合った、詰まりの元凶そのものでした。吐き気をこらえながら、私は割り箸と古い歯ブラシを手に、その塊との格闘を始めました。一時間後、全ての汚れを取り除き、部品を元に戻して水を流すと、ゴボゴボという音と共に、水は嘘のように勢いよく吸い込まれていきました。この一件以来、私は月に一度、必ず排水トラップの掃除を欠かさず行っています。あの悪夢を二度と繰り返さないために。