排水管メンテナンスの現場に携わる立場から、健康診断のバリウムがトイレに詰まったという相談を受けるたびに、私たちは「もっと早く呼んでいただければ」あるいは「放置さえしなければ」という思いを強くします。多くのお客様が仰るのは、最初は少し残っていただけだったので、何度か使っているうちにそのうち流れると思っていた、という言葉です。しかし、この「そのうち流れる」という思い込みこそが、数千円の掃除で済むはずだった問題を、数万円の配管洗浄や、最悪の場合は数十万円の配管交換工事にまで発展させる元凶なのです。バリウム、正確には硫酸バリウムは、その比重が水の約四点五倍もあり、金属に近い重さを持っています。これが便器のトラップ、つまり水が溜まっている曲がりくねった配管の底に沈み込むと、通常の水流だけでこれを押し上げるのは物理的に非常に困難です。さらに、バリウムには「乾燥硬化」という性質があり、水中にあっても表面が空気に触れたり時間が経過したりすると、粒子同士が密着してカチカチの固形物になります。この状態で放置されると、次に流れてくる排泄物やトイレットペーパーをバリウムがキャッチする「ダム」のような役割を果たし、排水管の奥深くで巨大な詰まりを形成します。業者が専用のトーラーや高圧洗浄機を使用しても、石のように固まったバリウムを剥がすのは容易ではなく、作業には多大な時間と技術を要します。また、浄化槽を使用しているご家庭の場合、バリウムは微生物で分解されない無機物であるため、浄化槽の底に堆積してシステムの故障を招くこともあります。バリウムを「ただの汚れ」だと思ってはいけません。それは性質としては「コンクリートの粉」を流しているのに等しい行為なのです。もしバリウムが便器に残ってしまったら、即座にぬるま湯で柔らかくし、物理的に細かくして流し去るのが正解です。「そのうち流れる」という楽観視は、排水管という住宅の重要なインフラを危険にさらす無責任な賭けでしかありません。トラブルの予兆である水の流れの悪さを感じたら、手遅れになる前にプロの診断を受けてください。私たちは、たった一回の検査後の不始末が、家全体の生活機能を麻痺させる現場を何度も見てきました。バリウムに対する正しい危機感を持つことこそが、住まいの寿命を延ばす鍵となるのです。